IT系企業では、自社利用ソフトウェアを構築して顧客にSaaS型のサービスを提供するビジネスモデルが一般的です。
ここでは自社利用ソフトウェアの税務上と会計上の扱いについて解説します。
税務上の扱い
会計監査を受けない企業(非上場会社かつ非大会社)は通常、税法基準で会計処理を行うため、税務上の扱いに則って決算書を作成します。
自社利用ソフトウェアの取得価額、修繕費と資本的支出
自社利用ソフトウェアに係る研究開発費は、将来の収益獲得または費用削減にならないことが明らかなもの以外は全てソフトウェアとして固定資産計上します。
なお、ソフトウェアの耐用年数は利用目的に定められており、自社利用ソフトウェアは5年で減価償却を行います。
①「複写して販売するための原本」または「研究開発用のもの」・・・3年
②「その他のもの」・・・5年
また、既存のソフトウェアのプログラム修正を行う場合は以下の処理を行います。
・プログラムの機能上の障害の除去、現状の効用維持のための支出は修繕費(費用処理)
・新たな機能追加、機能向上のための支出は資本的支出(ソフトウェアとして固定資産計上)
実務上の注意点
正確な会計処理を行うためにはソフトウェア関連費用の情報管理が必要です。制作会社にソフトウェアの開発を外注している場合は、①②③が分かるように区分された請求書の発行を依頼します。
①開発費(ソフトウェア計上)と保守運用費(修繕費)を区分
②バージョンごとの開発費を区分
③バージョンごとのサービス公開日を管理
上記の情報を元にして、以下のような会計処理を行います。
支出内容 | 会計処理 |
---|---|
自社利用ソフトウェアの開発 | ソフトウェア(利用開始月から5年で減価償却) |
既存ソフトウェアの保守運用 | 修繕費などで費用処理 |
アップデート版の開発 | ソフトウェア(利用開始月から別途5年で減価償却) |
具体的な会計処理
次のような場合の会計処理を例示します。
【1月】自社利用ソフトウェアを制作開始
【2月】自社利用ソフトウェアが完成
【3月】サービスが公開され、保守運用費やアップデート版(バージョン2.0)の制作費用が発生
【4月】アップデート版(バージョン2.0)が完成・公開
ソフトウェアの制作(1月)
ソフトウェアの制作費用はソフトウェア仮勘定に集計します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
ソフトウェア仮勘定 | 3,000,000 | 未払金 | 3,000,000 |
ソフトウェアの完成(2月)
ソフトウェア仮勘定に集計した制作費用をソフトウェアに振替えます。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
ソフトウェア仮勘定 | 3,000,000 | 未払金 | 3,000,000 |
ソフトウェア① | 6,000,000 | ソフトウェア仮勘定 | 6,000,000 |
ソフトウェアの利用開始・保守運営、バージョン2.0の制作(3月)
ソフトウェアの減価償却は利用開始月(サービス公開月)に始まります。また、保守運用費は修繕費として費用処理し、バージョン2.0の制作費用はソフトウェア仮勘定に集計します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
修繕費 | 200,000 | 未払金 | 500,000 |
ソフトウェア仮勘定 | 300,000 | ||
減価償却費① | 100,000 | ソフトウェア① | 100,000 |
既存ソフトウェアの保守運営、バージョン2.0の完成と公開(4月)
バージョン2.0は完成と同時に利用開始(サービス公開)したため、ソフトウェアに振替えると同時に減価償却が始まります。また、保守運用費は修繕費として費用処理します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
修繕費 | 200,000 | 未払金 | 500,000 |
ソフトウェア仮勘定 | 300,000 | ||
ソフトウェア② | 600,000 | ソフトウェア仮勘定 | 600,000 |
減価償却費① | 100,000 | ソフトウェア① | 100,000 |
減価償却費② | 10,000 | ソフトウェア② | 10,000 |
会計上の扱い
会計監査を受ける企業(上場会社や大会社、あるいは上場準備企業)は会計基準に準拠して決算書を作成します。
自社利用ソフトウェアの取得価額、修繕費と資本的支出
自社利用ソフトウェアの研究開発費は、将来の収益獲得又は費用削減に確実につながる支出に限り、ソフトウェアとして資産計上します。
また、既存のソフトウェアに対する支出は、機能維持や保守のための費用は修繕費として費用処理、著しい改良は研究開発費として費用処理し、それ以外(著しい改良でない機能の追加)はソフトウェアとして資産計上します。
会計と税務の差異調整
ソフトウェアに関しては税務上の扱いと会計上の扱いが異なるため、上場準備に伴い会計監査を受ける場合は、会計基準に準拠した決算書を作成した上で、税務申告書上で会計と税務の差異調整を行い税金計算します。