会計事務所では法人の各顧問先について、決算月の2か月後の末日の申告期限までに決算書・確定申告書の作成を行い、それに対応する法人税や消費税の納付を行います。
当記事では、マネーフォワード クラウド会計と達人シリーズを活用した決算・確定申告の実務について解説します。
期末決算のスケジュール
例えば7月決算の法人の場合、期末決算や翌年度8月の月次決算に必要な会計資料を9月の月初~中旬に受領して会計処理を行います。その後必要に応じて不明点の確認や資料の追加依頼を行い、決算書・確定申告書を作成します。
■7月決算の法人の期末決算スケジュール例
9月第1週 顧問先から7月の期末決算や翌年度8月の月次決算に必要な会計資料を回収する
9月第2週 受領資料をもとに7月の期末決算や翌年度8月の月次決算を暫定的に行う
9月第3週 会計処理の不明点について顧問先に確認する、不足資料の追加依頼を行う
9月第4週 7月決算の決算書・確定申告書を作成し、顧問先に決算内容を説明して承認を得る
説明後 税務署・都道府県税事務所・市町村に電子申告を行い、顧問先に納税案内をする
もちろん顧問先の状況次第で上記より前倒しで決算書・確定申告書を作成することも可能です。
①資料の回収
顧問先との間に設定したGoogleドライブの共有フォルダに、9月○日までに7月の期末決算や翌年度8月の月次決算に必要な会計資料を保存するように依頼しておきます。
【例】支払いの請求書 ※実際はここまで体系的なファイル名でないことも多い
受領した資料は勘定科目ごとのフォルダにファイルの命名規則に従って保存します。
・預金、カード、売上明細等の毎月受領する資料:ファイル名の末尾にYYMM(年月4桁)を付与
・その他随時受領する請求書等:ファイル名の頭にYYMM(年月4桁)を付与
【例】普通預金 ※命名規則に従い保存(ファイル名はF2で編集可能にしてCtrl+Cでコピーし、Ctrl+Vでペースト)
②決算書と申告書の作成
翌年度の月次決算
例えば7月決算の法人の場合、まず翌年度の8月の月次決算を暫定的に行います。これは、8月の会計処理を行うことで、7月の期末決算に必要な決算修正仕訳が把握しやすくなるためです。
理屈で言えば、決算修正仕訳に必要な全ての資料を顧問先から回収できれば良いのですが、例えば「7月までに納品・役務提供を受けたもので8月以降に支払う請求書を全てください」と依頼しても抜け漏れが発生することはよくあります。
そこで翌年度の8月の月次決算を行い、「8月〇日に払っているXXX円は7月分の業務委託料なので、年度決算で未払金の計上が必要だ」といった情報を収集し、より正確な年度決算を可能にします。
決算修正① 消費税と法人税等以外の確定
減価償却、棚卸資産、貸倒引当金、消費税、法人税等については、多くの顧問先で同内容の決算整理仕訳を繰り返し登録するため、「各種設定>仕訳辞書」に事前に仕訳の雛形を登録しておきます。
未払金
中小企業の会計実務として、「期中現金主義・期末発生主義」(期中は現金主義で記帳を行い、期末に決算修正で未払金計上を行い発生主義会計に対応する会計処理方法)を採用することが一般的です。その場合、年度決算で未払金計上の決算修正仕訳を登録します。
翌年度の月次決算の仕訳を流用
例えば翌年度の8月の月次決算の会計処理の過程で、7月までに納品・役務提供を受けたものの支払いに関して「前期分」というタグをつけておきます。
そうすると、「会計帳簿>仕訳帳」で「タグ:前期分」の仕訳を検索してcsv出力を行い、仕訳の日付と勘定科目をcsv上で変更したものを前期の仕訳にcsvインポートすれば、年度決算の未払金計上の決算修正仕訳を手入力せずに作成できます。
期末未払金の支払状況や期末売掛金の入金状況を翌年度の月次決算で確認
前期末に計上した未払金は翌年度の支払いで消えますし、売掛金も入金が行われます。それを確認することで期末未払金や期末売掛金の残高の正確性を検証します。
なお、売掛金や未払金の決済が期末日後から何か月も先になることもあります。この場合は顧問先から入手した請求書等が唯一の手掛かりのため、手入力で仕訳計上を行います。
減価償却費
前提として、減価償却計算が必要な資産は減価償却の達人で管理を行い、仕訳辞書の雛形を利用して達人で計算された減価償却費を仕訳登録します。なお、減価償却費の金額が大きい会社では月次決算で減価償却費の計上を行うことも考えられます。
①固定資産 に登録する資産
・創立費(会計上の繰延資産)
・長期前払費用(税法独自の繰延資産)
・工具器具備品、建物、建物附属設備、車両運搬具、土地などの有形固定資産
・ソフトウェアなどの無形固定資産 など
②一括償却資産 に登録する資産
・単価10万円以上20万円未満の固定資産 など
③少額減価償却資産 に登録する資産の例
・単価20万円以上30万円未満の固定資産 など
取得した固定資産の内容が分かる請求書等を確認して会計処理を行い、固定資産システム(減価償却の達人)で減価償却計算を行います。
例えば一括償却資産は期末に取得資産を合算して減価償却費を計上(直接法)するため、期中は取得価額だけ残高が増加し、期末には帳簿価額と一致します。
その他、間接法で償却する有形固定資産は取得価額と減価償却累計額が固定資産台帳と一致し、直接法で償却する無形固定資産は簿価が固定資産台帳と一致します。
【例】補助元帳 一括償却資産
【例】領収書または請求書(一括償却資産)
【例】固定資産台帳(一括償却資産)
貸倒引当金
中小企業では期末債権×法定繰入率で貸倒引当金の計上を行うことが一般的です。「期末債権」と「実質的に債権とみられないもの」を集計するエクセルシートを活用して貸倒引当金の計算を行い、仕訳辞書の雛形を利用して仕訳登録します。
決算修正② 消費税と税引前利益の確定
消費税申告書の作成
マネーフォワードクラウド会計で会計処理を行う際に仕訳登録した消費税区分やインボイス情報は「決算・申告>消費税集計」の帳票(下記①②)に反映されます。
A 勘定科目別税区分集計表(勘定科目ごとの消費税情報を集計した資料)
勘定科目ごとに正しい消費税区分はある程度推定できるため、間違いを発見するのに使用できます。例えば給与や租税公課は通常「課税対象外」ですが、もし課税仕入になっていれば消費税区分を間違えている可能性があります。
B 税区分集計表(売上と仕入を消費税区分ごとに集計した資料)
消費税申告書の各項目に記載されている数値の検証に使用します。
消費税の相殺と未払法人税等の計上の仕訳以外の会計処理が完了したら、マネーフォワードクラウド会計から消費税の達人(1回目)にデータをインポートして消費税申告書を作成します。作成した消費税申告書は上記B 税区分集計表で数値の検証を行います。
【手順の詳細】「達人シリーズ連携」の使い方
消費税の相殺と税引前利益の確定
消費税申告書ので納付額(または還付額)が確定したら、仕訳辞書の雛形を利用して消費税の相殺仕訳を登録します。これで税引前利益までの数字が確定します。
・「仮受消費税」「仮払消費税」・・・期末残高が0円になるように金額を登録
・「未払消費税」・・・消費税申告書で確定した納税額を登録
・「未収消費税等」・・・消費税申告書で確定した還付額を登録
・「雑収入」「雑損失」・・・消費税の相殺仕訳で発生した消費税差益や消費税差損を登録
消費税差益や消費税差損は個別の仕訳で計算される消費税と申告書で確定した消費税との端数処理の差で発生する他、下記のような場合に金額が大きくなります。
・簡易課税やインボイス2割特例を利用するため、仮払消費税と仕入税額控除に乖離がある
・課税売上割合が低いために適用できない仕入税額控除が多額である
決算修正③ 法人税等と当期純利益の確定
法人税の計算
消費税相殺の会計処理が完了したら、マネーフォワードクラウド会計から法人税の達人(1回目)にデータをインポートして法人税申告書、地方税申告書を作成します。
※このタイミングで作成する申告書は法人税等を計算目的の暫定版で、完成版ではありません
【手順の詳細】「達人シリーズ連携」の使い方
法人税等の計上と当期純利益の確定
法人税申告書、地方税申告書の作成が完了したら仕訳辞書の雛形を利用して法人税等の計上仕訳を登録します。
・「仮払法人税等」・・・法人税等の中間納付額を登録
・「未払法人税等」・・・法人税等の確定申告書で算定した納税額を登録
・「未収法人税等」・・・法人税等の確定申告書で算定した還付額を登録
・「法人税等」・・・中間申告や確定申告を合算した年間税額を登録
なお、還付申告になる場合でも法人住民税均等割は必ず別に納付するため、未払法人税等の金額が0円になることは基本的にありません。法人住民税の均等割(納付)と法人税割(還付)を相殺して均等割を納税しない場合、課税当局から「均等割と法人税割を一緒にするな」と指導が入るため実務的には相殺しません。
決算書・法人税申告書等の作成
法人税等の仕訳が最後の会計処理になるため、法人税等の計上仕訳を登録後、マネーフォワードの「決算・申告>決算書」で決算書を作成します。
同様に、法人税等の仕訳が最後の会計処理になるため、法人税等の計上仕訳を登録後、マネーフォワードクラウド会計から達人シリーズに再度データをインポートします。その後、法人税申告書、地方税申告書、勘定科目内訳書、法人事業概況説明書、税務代理権限証書の完成版を作成します。
・消費税の達人(2回目)
・法人税の達人(2回目)
・内訳概況書の達人(1回目)
【手順の詳細】「達人シリーズ連携」の使い方
③決算内容を顧問先に説明する面談
決算書と申告書の作成後、決算内容の説明などのために顧問先との面談を行います。
・決算内容の説明
・法人税等の納付額(還付額)の説明
・消費税の納付額(還付額)の説明
・翌期の見通しと役員報酬改定に関する相談
④株主総会での決算承認後に電子申告
株式会社の決算は株主総会の承認をもって確定するため、顧問先から決算・申告の承認を得た後、電子申告を行います。
1人社長が100%株主の会社であれば、顧問先と会計事務所の打ち合わせが実質的に株主総会での決算承認となるケースが一般的ですが、多数の株主がいる場合、株主総会の開催に時間がかかることも多いのでスケジュール調整に注意が必要です。
⑤決算関係書類と申告関係書類の保存
【1】消費税と税引前利益の確定時に保存する資料
会計事務所内で税引前利益までの会計処理の精査を行うため、月次決算用のフォルダとは別に期末決算用のフォルダに、勘定科目・補助科目単位で証憑を保存します。
BS科目・・・補助科目ごとの期末残高が分かる証憑を全て保存
普通預金(期末残高が分かる入出金明細)
売掛金(期末残高に含まれる全請求書)
未払金(期末残高に含まれる全請求書、期末残高に含まれる全カード明細)
未払費用(マネーフォワードクラウド給与で出力した支給控除一覧表)
PL科目・・・金額的あるいは質的に重要な証憑を保存
決算修正関係(受取利息や受取配当金の源泉所得税の会計処理)
固定資産関係(期中に新規取得したもの、資本的支出ではなく修繕費として処理したもの)
地代家賃(期中に新規契約したもの)
また、申告書証憑フォルダには税引前利益を確定に必要な決算・申告関係書類を保存します。
A マネーフォワードクラウド会計から出力する資料
①勘定科目別税区分集計表(完成版)
①税区分集計表(完成版)
B 減価償却の達人から出力する資料
①固定資産台帳
①一括償却資産明細表
①少額減価償却資産明細表
【2】決算書と法人税申告書等の作成時に保存する資料
税引前利益までの会計処理の精査完了後に決算書と申告書の作成が完了したら、会計事務所内で決算書と申告書の精査を行うため、申告書証憑フォルダに下記の資料を保存します。
①:既に①で保存した資料
②:新たに保存する資料、税引前利益確定後に差替えて再保存する資料
A マネーフォワードクラウド会計から出力する資料(電子申告前)
②決算書(マネーフォワード版)
②勘定科目別税区分集計表(完成版)
②税区分集計表(完成版)
B 減価償却の達人から出力する資料
①固定資産台帳
①一括償却資産明細表
①少額減価償却資産明細表
C 消費税の達人から出力する資料
②消費税申告書
D 法人税の達人から出力する資料
②納付税額一覧表
②決算書(達人版)
②法人税申告書
②添付資料(e-Taxに対応していない帳票のイメージデータ)
②地方税申告書
②税務代理権限証書
E 内訳概況書の達人から出力する資料
②勘定科目内訳明細書
②法人事業概況説明書
【3】電子申告後に顧問先への納品物として保存する資料
電子申告後には下記の資料を顧客への納品フォルダに保存します。
①:既に①で保存した資料
②:既に②で保存した資料
③:新たに保存する資料、電子申告の達人で送信日時印字済みものに差替えて再保存する資料
A マネーフォワードクラウド会計から出力する資料
②決算書
②勘定科目別税区分集計表
②税区分集計表
③総勘定元帳
③補助元帳
③残高試算表
③仕訳帳
③仕訳データ(csv)
B 減価償却の達人から出力する資料
①固定資産台帳
①一括償却資産明細表
①少額減価償却資産明細表
D 法人税の達人から出力する資料
②納付税額一覧表
②添付資料(e-Taxに対応していない帳票のイメージデータ)
F 電子申告の達人から出力する資料
③法人税申告書(決算書、勘定科目内訳明細書、法人事業概況説明書、税務代理権限証書含む)
③消費税申告書
③地方税申告書(送信先の都道府県や市町村の数だけ保存)
③上記3つの申告書に対応する受信通知と納付情報