複数の事業を営んでいる場合、A事業を法人化して役員報酬(給与所得)を受け取り、B事業は個人事業主(事業所得)として展開することも可能です。実は、①個人事業主で全ての事業を行う場合や、②全ての事業を法人化する場合よりも③法人と個人事業を併用した場合は税金と社会保険料を削減できます。
個人事業と法人の比較
法人と個人事業では以下のような違いがあり、併用することでそれぞれの長所を生かすことができます。
個人事業 | 法人 | |
個人の所得税 |
事業所得について青色申告特別控除65万円を活用できる |
役員報酬について給与所得控除を最大195万円活用できる |
自宅の家賃 |
法人契約の借上社宅として50~80%を費用にできる |
|
生命保険料 | 最大12万円の生命保険料控除 |
・契約内容によっては生命保険料の全額を費用にできる ・退職金を組み合わせた節税が可能 |
加入する公的医療制度と公的保険 |
・国民健康保険と国民年金 |
・健康保険と厚生年金 ・毎月の役員報酬を少額にして社会保険料の削減が可能 |
【所得税】
・個人事業では青色申告特別控除65万円を活用します。
・法人からの役員報酬で給与所得控除を最大195万円活用します。
【法人税】
・借上社宅の活用により、自宅家賃の費用化を行います。
・生命保険料と退職金の組み合わせによって法人の利益を繰延べします。
【社会保険料】
・毎月の役員報酬(定期同額給与)を少額にして社会保険料を削減します。
・役員賞与(事前確定届出給与)の支給で社会保険料を削減します。
【参考】役員賞与に係る社会保険料の上限
具体的な事例
人件費等を除く全体の利益が1,500万円、法人の課税所得が300~400万円程度になるように役員報酬を設定した①~⑥のパターンで税金と社会保険料を比較します。
①個人のみ
【個人】利益1,500万円
②法人のみ
【法人】利益1,500万円
・定期同額給与90万円×12か月を支給
③法人のみ(役員賞与で社会保険料を抑制)
【法人】利益1500万円
・定期同額給与6万円×12か月を支給
・事前確定届出給与1,008万円を支給
④個人+法人
【個人】利益200万円
【法人】利益1,300万円
・定期同額給与71万円×12か月を支給
⑤個人+法人(少額の役員報酬で社会保険料を最小化)
【個人】利益1,100万円
【法人】利益400万円
・定期同額給与6万円×12か月を支給
⑥個人+法人(役員賞与で社会保険料を抑制)
【個人】利益200万円
【法人】利益1,300万円
・定期同額給与6万円×12か月を支給
・事前確定届出給与780万円を支給
【39歳以下の場合】※東京都品川区(2021年4月納付分~)
①個人 |
②法人 |
③法人・役員賞与 |
事業所得 所得税+住民税 |
給与所得 |
給与所得 |
|
法人の課税所得 法人税等 |
法人の課税所得 法人税等 |
国保・国民年金 |
社保 41(32)等級 |
社保 1(1)等級+役員賞与 |
合計5,070,320円 |
合計4,952,824円 |
合計3,958,064円 |
④個人+法人 |
⑤個人+法人・社保最小 |
⑥個人+法人・役員賞与 |
事業所得 |
事業所得 |
事業所得 |
法人の課税所得 |
法人の課税所得 |
法人の課税所得 |
社保 37(32)等級 |
社保 1(1)等級 |
社保 1(1)等級+役員賞与 |
合計4,569,768円 |
合計3,798,732円 |
合計3,710,064円 |
上記のケースでは、個人と法人を併用した上で定期同額給与を少額にする⑤⑥が、税金と社会保険料の負担を最小にしています。青色申告特別控除と給与所得控除の併用に加え、社会保険料の等級が低いためです。
この他にも、売上が個人と法人に分散されることで消費税が免税となる、あるいは簡易課税制度の選択が可能になるというメリットもあります。
【参考】
・課税売上高1,000万円以下の場合は消費税の納税義務が免除
・課税売上高5,000万円以下の場合は消費税の簡易課税制度が選択可能
注意点
【厚生年金保険料の減少】
掛け捨ての健康保険料と異なり、厚生年金保険料は将来の年金受給金額に関係します。厚生年金保険料が減少することで、将来受給できる年金が減少するというデメリットが発生します。
【税務署や年金事務所からの問題視】
現状、役員賞与を多額に支給する方法について、通常、税務署や年金事務所に問題視されることはないようですが、可能性は0ではありません。職務内容に対して役員賞与が過大であるとして費用計上が認められないリスクがあります。
【個人事業と法人の明確な区別】
複数事業を個人と法人で営む場合は、それらが会計上明確に区別できる異種の事業である必要があります。同種の事業や会計区分の曖昧な事業を個人と法人の両方で営んでいると、税務調査時に恣意的な利益調整を行っていると判断される可能性があります。