結論として、個人事業主と法人は掛け持ちすることが可能です。

複数の事業を営んでいる場合、A事業を法人化して役員報酬(給与所得)を受け取り、B事業は個人事業主(事業所得)として展開できます。実は、①個人事業主で全ての事業を行う場合や、②全ての事業を法人化する場合よりも③法人と個人事業を併用した場合は税金と社会保険料を削減できます

個人事業主と法人を掛け持ちするメリット

個人事業主と法人を掛け持ちするメリット

はじめに、個人事業主と法人を掛け持ちするメリットについて紹介します。
具体的なメリットは以下の通りです。

・社会保険が安くなる
・個人事業主と法人の節税策を両方活用できる
・法人の信用力を個人事業主にも利用できる

それぞれのメリットについて詳しく解説します。

個人事業主と法人を掛け持ちすると社会保険が安くなる

個人事業主と法人を掛け持ちするメリットとして、社会保険が安くなる可能性がある点が挙げられます。

個人事業主と法人は、主に以下のような社会保険に加入します。

個人事業主国民年金・国民健康保険
法人厚生年金・協会けんぽ(健康保険)

個人事業主が法人を立ち上げれば、法人で受け取る報酬のみが社会保険料の対象となります。

そのため、個人事業の所得を増やして法人での役員報酬を減らせば、社会保険料を削減することが可能です。

個人事業主と法人を掛け持ちすると節税効果が高くなり経費を確保しやすくなる

個人事業主と法人を掛け持ちするメリットとして、個人と法人の両方で節税を行うことができる点も挙げられます。

個人事業主と法人の税制は異なり、両者のメリットをそれぞれ享受することが可能です。
具体的には、以下のような節税効果が挙げられます。

・個人事業主として、青色申告特別控除が受けられる
・法人での役員報酬として、給与所得控除が受けられる
・売上を分散することで課税事業者になることを回避できる
・経費にできる範囲が広がる

掛け持ちすることで、個人事業主と法人の両方で節税ができ、税金面でのメリットを最大限に活用できます。ただし、掛け持ちには手続きや管理が煩雑になることもあるため事前にしっかりと準備をしておくことが重要です。

また、個人事業主向けと法人向けの補助金をどちらも受給できる可能性があるのも大きなメリットでしょう。

個人事業主と法人を掛け持ちすると法人の信用力を利用できる

個人事業主と法人を掛け持ちするメリットとして、法人の信用力を利用できる点も挙げられます。
法人化をすれば社会的な信用を得ることが可能です。

また、法人で得た信用力を活用すれば個人事業主の事業にも有利に働く場合が多くあります。

具体的なメリットとしては、個人事業主だけでは繋がることができなかった取引先と繋がることができたり、銀行からの融資が下りやすくなったりする効果が期待できます。

個人事業主と法人を掛け持ちするデメリット

個人事業主と法人を掛け持ちするデメリット

次に、個人事業主と法人を掛け持ちするデメリットについて紹介します。

具体的なメリットは以下の通りです。

・支払う税金の種類が多くなる
・事務処理が面倒になる
・社会保険への加入が必須になる

それぞれのデメリットについて詳しく解説します。

個人事業主と法人を掛け持ちすると支払う税金の種類が多くなる

個人事業主と法人を掛け持ちするデメリットとして、支払う税金の種類が多くなる点が挙げられます。

掛け持ちを行うと、個人事業主と法人それぞれに対して税金が課されるため、税務管理が複雑です。

例えば、個人事業主として所得税や消費税を支払う必要がありますが、法人としても法人税や消費税が発生します。

これらの税金を適切に管理し、期限内に支払わなければペナルティを受けてしまう可能性があります。

個人事業主と法人を掛け持ちすると事務処理が面倒になる

個人事業主と法人を掛け持ちするデメリットとして、事務処理が面倒になる点も挙げられます。

掛け持ちをした場合、個人事業主と法人の両方の事務処理が必要です。

経費をはじめ、設立時の事務処理も複雑になるため、苦手な方は税理士をはじめとした専門家に依頼するのがおすすめです。

個人事業主と法人を掛け持ちすると社会保険への加入が必須になる

個人事業主と法人を掛け持ちするデメリットとして、社会保険への加入が必須になる点も挙げられます。

個人事業主の場合社会保険は不要ですが、法人を設立して給与を支払う場合 は必ず加入しなければいけません。

また、法人として従業員を雇った場合は従業員の社会保険料を半分支払う必要があります。

そのため、事業が軌道に乗っていないうちに従業員を雇ってしまうと、社会保険料が大きな負担になる場合があるため注意が必要です。

マイクロ法人とは?

マイクロ法人とは?

マイクロ法人とは、小規模な事業を行う法人のことを指します。

株主と取締役が一人で、個人もしくは身内のみで運営されているのが特徴です。

従業員数が少なく、資本金も小さい法人が該当し、個人事業主に近い形態で事業を行います。
主に、起業家やフリーランスが、税金や責任の範囲を制限する目的で設立することが一般的です。

マイクロ法人は売上なしでも設立できる

マイクロ法人は売上がなくても設立可能で、売上がないこと自体に問題はありません

ただし、税務署から事業実態のないペーパーカンパニーとみなされると、脱税行為または租税回避行為として判断される場合があります。

税務署から脱税行為・租税回避行為と判断されないためにも、個人事業主とマイクロ法人の事業内容は必ず別にすることが重要です。

個人事業主とマイクロ法人の違い

個人事業主とマイクロ法人の違いは、法人格があるかどうかです。

マイクロ法人は規模の小さい業態のため、実質的には個人事業主と変わらない場合が多くあります。

しかし、マイクロ法人は法人格を有しているため個人事業主とは違った節税効果があったり別の補助金が受け取れたりするメリットがあります。

サラリーマンにマイクロ法人は不要

サラリーマンがマイクロ法人を設立してもメリットがないためマイクロ法人は不要です。

個人事業主がマイクロ法人を設立すると、役員報酬を低く設定し、少額の社会保険料を支払うことで国民健康保険&国民年金よりも負担を軽減することができます。

しかし、サラリーマンはもともと雇われている会社で社会保険を支払っているため、マイクロ法人を設立しても社会保障費の負担軽減効果はありません。

個人事業と法人の比較

法人と個人事業では以下のような違いがあり、併用することでそれぞれの長所を生かすことができます。

  個人事業 法人
個人の所得税

事業所得について青色申告特別控除65万円を活用できる

役員報酬について給与所得控除を最大195万円活用できる

自宅の家賃

事業利用している面積比率や時間比率に応じて家賃を費用にできる(多くの場合は10~30%程度)

事業利用していなくても、法人契約の借上社宅として50~80%程度を費用にできる

生命保険料 最大12万円の生命保険料控除

・契約内容によっては生命保険料の全額を費用にできる

退職金を組み合わせた節税が可能

加入する公的医療制度と公的保険

・国民健康保険と国民年金

・健康保険と厚生年金

毎月の役員報酬を少額にして社会保険料の削減が可能

【所得税】
・個人事業では青色申告特別控除65万円を活用します。
・法人からの役員報酬で給与所得控除を最大195万円活用します。

【法人税】
・借上社宅の活用により、自宅家賃の費用化を行います。
・生命保険料と退職金の組み合わせによって法人の利益を繰延べします。

【社会保険料】
毎月の役員報酬(定期同額給与)を少額にして社会保険料を削減します。
役員賞与(事前確定届出給与)の支給で社会保険料を削減します。

【参考】役員賞与に係る社会保険料の上限

具体的な事例

具体的な事例

人件費等を除く全体の利益が1,500万円、法人の課税所得が300~400万円程度になるように役員報酬を設定した①~⑥のパターンで税金と社会保険料を比較します。

①個人のみ
【個人】利益1,500万円

②法人のみ
【法人】利益1,500万円
・定期同額給与90万円×12か月を支給

③法人のみ(役員賞与で社会保険料を抑制)
【法人】利益1,500万円
・定期同額給与6万円×12か月を支給
・事前確定届出給与1,008万円を支給

個人+法人
【個人】利益200万円
【法人】利益1,300万円
・定期同額給与71万円×12か月を支給

⑤個人+法人(少額の役員報酬で社会保険料を最小化)
【個人】利益1,100万円
【法人】利益400万円
・定期同額給与6万円×12か月を支給

個人+法人(役員賞与で社会保険料を抑制)
【個人】利益200万円
【法人】利益1,300万円
・定期同額給与6万円×12か月を支給
・事前確定届出給与780万円を支給

【39歳以下の場合】※東京都品川区(2021年4月納付分~)

①個人
②法人
③法人・役員賞与

事業所得
14,350,000円

所得税+住民税
4,051,000円

給与所得
8,850,000円
所得税+住民税
1,742,000円

給与所得
8,850,000円
所得税+住民税
1,974,000円

  

法人の課税所得
2,959,588円

法人税等
730,000円

法人の課税所得
3,649,968円

法人税等
884,000円

国保・国民年金
1,019,320円

社保 41(32)等級
2,480,824円

社保 1(1)等級+役員賞与
1,100,064円

合計5,070,320円

合計4,952,824円

合計3,958,064円

④個人+法人
⑤個人+法人・社保最小
⑥個人+法人・役員賞与

事業所得
1,350,000円
給与所得
6,570,000円
所得税+住民税
1
,486,000円

事業所得
10,350,000円
給与所得
170,000円
所得税+住民税
2,765,000円

事業所得
1,350,000円
給与所得
6,570,000円
所得税+住民税
1,664,000円

法人の課税所得
3,347,116円
法人税等
818,000円

法人の課税所得
3,149,134円
法人税等
772,000円

法人の課税所得
3,929,968円
法人税等
946,000円

社保 37(32)等級
2,265,768円

社保 1(1)等級
261,732円

社保 1(1)等級+役員賞与
1,100,064円

合計4,569,768円

合計3,798,732円

合計3,710,064円

上記のケースでは、個人と法人を併用した上で定期同額給与を少額にする⑤⑥が、税金と社会保険料の負担を最小にしています。青色申告特別控除と給与所得控除の併用に加え、社会保険料の等級が低いためです。

この他にも、売上が個人と法人に分散されることで消費税が免税となる、あるいは簡易課税制度の選択が可能になるというメリットもあります。

【参考】
・課税売上高1,000万円以下の場合は消費税の納税義務が免除
・課税売上高5,000万円以下の場合は消費税の簡易課税制度が選択可能

注意点

注意点

【厚生年金保険料の減少】
掛け捨ての健康保険料と異なり、厚生年金保険料は将来の年金受給金額に関係します。厚生年金保険料が減少することで、将来受給できる年金が減少するというデメリットが発生します。

【税務署や年金事務所からの問題視】
現状、役員賞与を多額に支給する方法について、通常、税務署や年金事務所に問題視されることはないようですが、可能性は0ではありません。職務内容に対して役員賞与が過大であるとして費用計上が認められないリスクがあります。

【個人事業と法人の明確な区別】
複数事業を個人と法人で営む場合は、それらが会計上明確に区別できる異種の事業である必要があります。同種の事業や会計区分の曖昧な事業を個人と法人の両方で営んでいると、税務調査時に恣意的な利益調整を行っていると判断される可能性があります。

【役員退職金の上限額の低下】
役員退職金には社会保険料がかからず、所得税や住民税もかなり優遇されています。税務上、不相応に高額な役員退職金は経費として認められず、その上限額は通常以下のような算式(功績倍率法)で決定します。

役員退職金の上限額 = 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率(代表取締役社長で3倍)

上記の「最終報酬月額」は定期同額給与で判定され、事前確定届出給与は含まないとされています。また、退職直前の支給実績だけで判断されるわけではないため、退職直前に定期同額給与での支給に切り替えれば良いというものでもありません。従って、定期同額給与を減らすことで役員退職金の上限額が低下してしまうリスクがあります。